18.14 万葉集 4181・4182・4183・4189・4192・4193・4194・4195・4196・4203
第19巻4181
さ夜更けて 暁月に 影見えて 鳴く霍公鳥 聞けばなつかし
さよふけて あかときつきに かげみえて なくほととぎす きけばなつかし
意味:
夜も非常に遅くなった時 夜明け近くのまだ暗い時分に 影が見えて 鳴くホトトギスの声を 聞けばなつかしい
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、18.14章の第18巻4180の3つの反歌の1番目です。
第19巻4182
霍公鳥 聞けども飽かず 網捕りに 捕りてなつけな 離れず鳴くがね
ほととぎす きけどもあかず あみとりに とりてなつけな かれずなくがね
意味:
ホトトギスの声は 聞いて飽きることがありません 網に掛けて 捕らえなじませ 離れず鳴かせたい
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、18.14章の第18巻4180の3つの反歌の2番目です。
第19巻4183
霍公鳥 飼ひ通せらば 今年経て 来向ふ夏は まづ鳴きなむを
ほととぎす かひとほせらば ことしへて きむかふなつは まづなきなむを
意味;
ホトトギスを づっと飼い続けたら 今年を過ぎて 向かってくる夏は 何はさておき必ず鳴いて欲しいです
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、18.14章の第18巻4180の3つの反歌の3番目です。
第19巻4189
1 天離る 鄙としあれば あまざかる ひなとしあれば
2 そこここも 同じ心ぞ そこここも おやじこころぞ
3 家離り 年の経ゆけば いへざかり としのへゆけば
4 うつせみは 物思ひ繁し うつせみは ものもひしげし
5 そこゆゑに 心なぐさに そこゆゑに こころなぐさに
6 霍公鳥 鳴く初声を ほととぎす なくはつこゑを
7 橘の 玉にあへ貫き たちばなの たまにあへぬき
8 かづらきて 遊ばむはしも かづらきて あそばむはしも
9 大夫を 伴なへ立てて ますらをを ともなへたてて
10 叔羅川 なづさひ上り しくらがは なづさひのぼり
11 平瀬には 小網さし渡し ひらせには さでさしわたし
12 早き瀬に 鵜を潜けつつ はやきせに うをかづけつつ
13 月に日に しかし遊ばね 愛しき我が背子 つきにひに しかしあそばね はしきわがせこ
意味:
1 都から天遠く離れている 田舎住まいとなれば
2 いたるところで 同じ気持ちである
3 家を離れて 年月が経て行けば
4 生きている人間は 物思が激しい
5 それだから 心に安らぎを与えるために
6 ホトトギスの 鳴く初声を
7 橘の花を 薬玉と一緒に糸で貫き
8 髪飾りにして 遊ぶその頃にでも
9 立派な男性を お伴させ連れだって
10 叔羅川(福井県武生市の川?)を 水にもまれて上り
11 流れの緩やかな浅瀬には 小網をさし渡して
12 流れの早い瀬には 鵜(う)を水中に潜らせる
13 月ごと日ごと そのようにして遊んではどうでしょか 愛しき私の主人よ
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「鵜を越前の判官大伴池主に贈る歌」なっています。
第19巻4192
1 桃の花 紅色に もものはな くれなゐいろに
2 にほひたる 面輪のうちに にほひたる おもわのうちに
3 青柳の 細き眉根を あをやぎの ほそきまよねを
4 笑み曲がり 朝影見つつ ゑみまがり あさかげみつつ
5 娘子らが 手に取り持てる をとめらが てにとりもてる
6 まそ鏡 二上山に まそかがみ ふたがみやまに
7 木の暗の 茂き谷辺を このくれの しげきたにへを
8 呼び響め 朝飛び渡り よびとよめ あさとびわたり
9 夕月夜 かそけき野辺に ゆふづくよ かそけきのへに
10 はろはろに 鳴く霍公鳥 はろはろに なくほととぎす
11 立ち潜くと 羽触れに散らす たちくくと はぶれにちらす
12 藤波の 花なつかしみ ふぢなみの はななつかしみ
13 引き攀ぢて 袖に扱入れつ 染まば染むとも ひきよぢて そでにこきれつ しまばしむとも
意味:
1 桃の花のような 紅色に
2 匂う 顔の
3 青柳のような 細い眉が
4 曲がるほどに微笑んで 朝、鏡に映した姿を見ながら
5 少女たちが 手に取り持った
6 よく澄んだ鏡 二上山に
7 木の下であたりが暗い 茂った谷辺を
8 鳴き声を響かせて 朝飛び渡り
9 日暮れ方の月が 薄く見える野辺に
10 はるばると 鳴くホトトギス
11 花の間を潜り抜けて 羽触れて散らす
12 ゆれる藤の花の波を 懐かしいと思い
13 引きつかんで寄せて しごいて取って袖に入れる 衣類が染ってしまってもよいから
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスに合わせて藤の花を読む」となっています。
第19巻4193
霍公鳥 鳴く羽触れにも 散りにけり 盛り過ぐらし 藤波の花
ほととぎす なくはぶれにも ちりにけり さかりすぐらし ふぢなみのはな
意味:
ホトトギスが 鳴きながら羽ばたいて羽が触れても 散ってしまう 盛りを過ぎた 藤の揺れる花
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4192の反歌です。
第19巻4194
霍公鳥 鳴き渡りぬと 告ぐれども 我れ聞き継がず 花は過ぎつつ
ほととぎす なきわたりぬと つぐれども われききつがず はなはすぎつつ
意味:
ホトトギスが 鳴いて渡ったと 人は告げてくれたけれど 私はずっと聞いていない 花の時期は過ぎているのに
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「さらに、ホトトギスの鳴くことが遅いのを恨む歌3首」となっています。
第19巻4195
我がここだ 偲はく知らに 霍公鳥 いづへの山を 鳴きか越ゆらむ
わがここだ しのはくしらに ほととぎす いづへのやまを なきかこゆらむ
意味:
私はここにいる 思い慕っているこを知らないで ホトトギスは どのあたりの山を 鳴いて超えて行くのか
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「さらに、ホトトギスの鳴くことが遅いのを恨む歌3首」の2首目の歌です。
第19巻4196
月立ちし 日より招きつつ うち偲ひ 待てど来鳴かぬ 霍公鳥かも
つきたちし ひよりをきつつ うちしのひ まてどきなかぬ ほととぎすかも
意味:
月が変わった 日より招きながら 思い慕って 待っているが来て鳴かない ホトトギスだね
作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「さらに、ホトトギスの鳴くことが遅いのを恨む歌3首」の3首目の歌です。
第19巻4203
家に行きて 何を語らむ あしひきの 山霍公鳥 一声も鳴け
いへにゆきて なにをかたらむ あしひきの やまほととぎす ひとこゑもなけ
意味:
家に行って 何を語ろうか すそを長く引く 山のホトトギス 一声でも鳴いておくれ
作者:
久米広縄(くめのひろただ/ひろつな)万葉集中に9首の歌を残した。大伴家持との関係が深い。